結局のところ、それは単純な結論 2
結局のところ、それは単純な結論(2)
ビーデルが言いかけたことを疑問に思いつつ膝に載せたランチボックスを開けると、ぎっしりとサンドイッチが詰まっていた。
厚切りのパンに、卵にレタスにトマトと、鮮やかな色が覗いている。
実に食欲をそそる姿に、悟飯は思わず、わあ、と小さな歓声を上げた。
「いただきます」
幼少の折から母に躾られた通りに両手を合わせて頭をぺこりと下げ、まず、ひとつ。
悟飯が手に取ったサンドイッチを嬉しそうに眺め、口に入れて咀嚼し、やがてごくんと飲み込むまでをビーデルは食い入る様に見つめていた。
「……どう?」
「美味しいです!ビーデルさん、料理上手なんですね」
「本当?」
そこで、ビーデルはやっと安堵した様な笑顔を見せた。花の咲いたような、柔らかい笑顔。
そういえば今日の彼女は朝からずっと緊張したような表情だったな、と思いながら、悟飯はひとつまたひとつとサンドイッチに手を伸ばす。
あっという間にいっぱいにサンドイッチが詰まったランチボックスは空になっていた。
「ごちそうさまでした」
「え?ああ、お粗末様……悟飯くん、もう食べ終わったの?」
「はい。あんまりこういうもの食べたことないんですけど、とっても美味しかったです」
小さな頃から母が作る中華料理を食べつけている悟飯は、洋食にはあまり馴染みがない。
母の腕前ならその気になればどんな料理だって作れる筈だが、異常な食欲の家族全員分をまかなう為には、母の得意料理でもある中華が一番効率が良い
のだろう。
そう、サイヤ人の血による異常な食欲を満足させるには。
ありがとうございました、とランチボックスを包み直してビーデルに渡す悟飯の腹が、ぐぅ、と鳴った。
「あ……」
包みを差し出したまま、しまったという表情を浮かべた悟飯を、ビーデルはきょとんとした目で見つめていた。
「もしかして、足りなかった?」
「えーと……はい」
先程その証明をしてしまった以上弁解する訳にもいかず、悟飯はすまなそうに言った。
ただ、せめてものフォローとして、ちょっとだけですけど、と嘘を付け加えた。
気を悪くしたかと恐る恐るビーデルを見ると、彼女はがっくりと肩を落としていた。
眉尻を下げ、彼女らしくもない大きな溜め息と共に、ぽつり、と一言。
「やっぱり駄目だわ、わたし」
ビーデルは普段から感情の起伏が激しい少女だが、喜びや怒りならまだしも、こんなに気を落としている姿を見るのは初めてだった。
そう、彼女はいつだって勝ち気で、元気で、勇ましい『女の子』。
「お料理の腕だってチチさんに敵わないのに、お腹いっぱいにしてあげることさえ出来ないなんて……」
「そんな、ビーデルさんのお弁当も母さんに負けないくらい美味しかったですよ?」
ううん、とビーデルは首を振った。
「……サンドイッチなんて、具をパンに挟むだけだもん。誰だって出来るわ」
「そうですか?僕はビーデルさんが作ったからあんなに美味しかったんだと思いますけど」
「!」
悟飯の何気ない一言に目をまるく見開き、それってその、もしかして──とビーデルが独り言ともとれる呟きをこぼしている事にも気づかず、彼は立ち上がって手を差し出した。
「まだ昼休みの時間は残ってますから、食堂に行きませんか?ビーデルさんのお昼はまだでしょう」
「う、うん!」
悟飯の手を取って自分も立ち上がり、ビーデルはこくんと頷いた。
「顔、真っ赤ですけど大丈夫ですか?」
「うるさいわね、ちょっと暑いだけよ!ほら、早く行きましょ」
にわかに元気づいた彼女を悟飯は不思議に思ったが、やがて前に立って駆け出した彼女の背中を追うことにした。
何であろうと、彼女が元気ならそれでいいんだ。
2008.August.13 up
なんかグダグダしちゃったなあ…。修正して再アップするかも。
いちおうブウ編後の両思いな二人ですが、悟飯は物凄く鈍感なくらいでいいと思ったらこんなんなっちゃいました。
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