クリア クリア

それは、世界が造られるよりずっとずっと前のこと。
彼は光と闇の狭間、無の中でひとり存在していた有だった。
音もない寂しさに耐え兼ねて口ずさむ歌はまだ産まれてもいない世界のおわり。
彼は、無の中にひとり漂う有だった。

「シグマ、ぼく、こわい」

世界の理を司る女神の衣に気安くしがみつくことも、彼には許されている。
ハテナはシグマの衣の裾をしっかりと掴み、母親に甘える子供のような仕草で、夢をみたんだ、と言った。

「悪夢だったのか」
「うん」
「そうか……」

シグマもまた子供をあやす母親のようにそっと、彼の頭に手を添えた。
女神の手は、彼から温度を感じなかった。温かくもなければ、冷たくもない。ただ、質量だけがある。
本当のところ、この世界が産まれる前より存在していた彼とシグマとの年齢差は殆ど無い。どちらも気が遠くなる程の長い歳月を過ごしてきているのだ。
しかし、彼の精神は幼子のそれと同じだった。無邪気で、純粋で。

「こわい夢だったよ」

シグマの体に顔をうずめながら、彼はぽつりぽつりと語り出す。

「この世界が、ぜんぶ無くなっちゃう夢。
かみさまもミミちゃんもニャミちゃんも、他のみんなが聴かせてくれた歌も、楽しいことも悲しいことも、みんな、壊れて、消えて。
また戻るんだ。最初にぼくがいた世界に。なんにも、本当になんにも無い世界に。
ぼくはひとりぼっちで、ねぇどうして誰もいないの来てくれないのって、ただひとりで歌を、ずっと、無の中で、歌を、」
「もういい!」

シグマは叫んだ。それは全てを一閃する雷に似た怒声だった。
腕の中で彼が身を強張らせるのが分かる。
怯えたのだろうか。しかし、あのまま止めなければ彼の感情は決壊しただろう。
決壊して溢れた彼の感情は何処へ行く?そして、彼自身は?
……世界の理を知り尽くした彼女には、結末が容易に理解出来た。文字通り、『世界の結末』が。

「……もう、いい。夢だ。全て悪い夢だ」
「…………うん」
「だから、恐れなくともよい。大丈夫、MZDが造ったこの世界は壊れぬよ」
「…………うん…………」
「それでも、まだ怖いか」
「ちょっと、だけ」

そうか、とシグマは呟いて、もう一度彼を抱き締めた。
そして、確かに感じる彼の質量に、女神は確信した。

(お前がそんなにも愛しているこの世界が、どうして失われる筈があろうか!)



2008.July.19 up


いまだに?君とΣ様のことが良く分かっていなかったりします。
個人的には、?君とMZDの影は別人だと思っています。Σ様とMZDのどっちが偉いのかはわかりません。やっぱりMZDかな。




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