sweet(am3:00) sweet(am3:00)

そうだ。喩えるならば、お前はケーキだ。
ふわりと柔らかい、甘いクリームを纏ったケーキだ。
天辺に毒々しい程の赤い苺を載せた、洒落者のケーキだ。
優美で、佳い匂いがして。
見る者を誘惑し、幻惑する。
そう、どんな手を使ってでも賞味したくなるケーキだ。
だからきっとそれは毒なのだ。喰えば身を崩す甘い毒だ。

お茶の時間、気まぐれに出したショートケーキをフォークでつつきながら、ロキちゃんはそう言った。
『言った』と表現するより、『唄った』という表現の方が良いかも知れない。
詩を暗誦するように語るロキちゃんの声は、荘厳な唄にも聴こえたから。
だけど、と私は考える。
毒入りのケーキに例えられるということは果たして光栄なのだろうか。

「褒めてくれているの?」

皮肉半分本気半分に問うと、

「どうかな。人間は毒という単語を耽美的な比喩表現として使う様だが……」

ロキちゃんは視線をケーキに向けたまま、何とも言い難い答えを返した。
先刻から彼女はケーキひとつを食べるのにひどく苦労している。
どうも、ケーキを崩さない様、丁寧にひとくちずつ切り分けるのが苦手らしい。
ちなみに私はとうに食べ終え、苦しむロキちゃんの姿を悠々と眺めている状態だ。

「ああ、もう」

コトリ、と硬質な音がして、必要以上にクリーム塗れになったフォークがテーブルに横たわり、私は折角のクロスが汚れることを心配した。

「駄目だ。如何せんこのケーキは柔らか過ぎる。私には合わぬ食物だ」

不貞腐れた呟き。
私はその言葉に微かな矛盾を感じ取った。それはロキちゃんが私を好きだという前提で生じる矛盾なのだけれど。

「それは……」

続きの言葉を飲み下す様に、紅茶をこくんと口に含む。

────不思議よね、人を好きになるとほんの少しの食い違いさえも許せなくなるんだわ────

温かい紅茶と一緒に飲み込んだ言葉は、ひんやりと冷たい吐息と一緒に吐き出される。

「……それは、私もロキちゃんに合わないってこと?」
「それは独り合点だな、リデル」

トゲを含んだ私の言葉を受け流し、ロキちゃんは続けた。

「私にも好みがある。お前は私の好みに合ったケーキだ。
お前はただ甘いだけのケーキではないだろう?何せ、私にも崩せぬのだ。
きっとお前は私の為に誂えられたケーキだ」

ゆったりと寛いだ様な頬杖と、口元には笑みを浮かべて。
そう、少し意地悪な、だけど美しい魔女の微笑み。

「だから、何処へも行くな。お前はこのロキのものだ。
魔女の食物は猛毒の水銀くらいで丁度良いのだ。私はお前の毒をも呑み込める」

朗々と語る声は、やはり唄うようで、思わず聴き惚れたのが少しだけ悔しかった。
だから、ちょっとだけ仕返し。

「……ロキちゃんって」
「何だ?」
「そんな恥ずかしい台詞、よく言えるわね」
「う、五月蝿いっ!」

誇り高き魔女の姿は何処へやら、ロキちゃんは頬を赤く染めて、ふいと目をそらす。
嫌だわ、恰好付かない人。

「……でもそういうところ、私は好きよ」

耳元でそっと囁いた言葉に、またロキちゃんの頬が染まるのが見えた。

(窒息しそうなほどにあまい、そんな午前三時)


2008.August.23 up


ロキはツンデレなイメージですがリデル嬢の前だとデレデレだといい。2,3年前に書いた初百合。
二人とも夜型生活です。




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