エスプレッソ嬢の憂鬱 エスプレッソ嬢の憂鬱

午前十時と午後三時きっかりを、私達ふたりはお茶の時間と決めている。
とは言っても、それはティータイムというよりおやつの時間に近い。
めいめい好きな飲み物───紅茶は勿論、コーヒー、レモネード、ココア、時には緑茶───と、それに合うお菓子(こちらもサンドウィッチだとかミートパイだとか、時たまお菓子でないもの)を用意するのだ。
その習慣は特にどちらから言い始めたでもなく、取り決めたことでもない。
ただ私は、ゆったりとしてほんの少し気だるげなその時間が好きだった。


「───どうした?」

視界の端に映るものは何かと思ったら、彼の手が顔の前でひらひらと揺れていた。

「なんでもないわ」
「頬杖ついたまま呆けていたから」
「……人を間抜けみたいに言わないで頂戴」

突っ慳貪な私の物言いにももう慣れっこだろう。彼は大して気を悪くした様子もなく、小さく肩をすくめるとコーヒーを飲んだ。
ふわりと苦味を帯びた薫りが漂ってくる。
きっとあれはブラックだろう。彼は紅茶にもコーヒーにも砂糖は入れない。
私は自分のカップの中に目を落とした。薄茶けた柔らかいクリーム色のミルクティーが、温かい湯気を立てている。ミルクと砂糖がたっぷり入ったミルクティー。

「君は本当に甘いものが好きだね」
「そうよ。悪い?」
「いや」

再び、沈黙。
今度は私がカップに口をつけた。
ミルクと砂糖の優しい甘みと、紅茶の微かな渋み。
砂糖をたくさん入れてしまうのは賢い味わい方ではないのかもしれないが、好きなものは仕方ない。

(そう、仕方ないの)

ミルクを入れればカフェオレくらいにはなれるのかしら、とか、そんなこと。
小恥ずかしい願いを悟られないように、私は甘い紅茶を黙って嚥下した。


2008.July.5 up


食事をしているシーンは読むのも書くのも好きです。
読んだ後、登場した食品が食べたくなるような描写ができるようになりたい。






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