31536000000秒後に逢いましょう 31536000000秒後に逢いましょう

千年前、二人の男女がひとつの約束を結んだ。
ひとりは、愛していると。
ひとりは、まだ応えることが出来ぬと。
約束は、千年後に、必ずやその返事を聞かせること。
その問いは長い長い時に預かられることとなった。


「では、仮にその千年の間に我が他の者を愛したら──汝はどうする?」
「えぇっ!?も、もしかしてWARAVEには既に好きな人がいるのかい!?」

目に見えて動揺する強欲王を、WARAVEは落ち着かぬか、と窘めた。

「仮に、と言ったろうが。もしもの話じゃ」
「なんだ、もしもか……うーん」

強欲王は、こめかみ(かどうかは良く分からないが)に人差し指を当てて何やら考えこんでいた。
そうなった場合を想定しているのかもしれない。

「……WARAVEが、他の誰かを、好きに」

しばしの沈黙の後に放たれた低い呟きと共に、強欲王が持つ緩んだ気配が、ふっと掻き消えた。
否、気配は消えたのではなく現れたのだ。枷によって封じられている筈の気配が、そこに姿を見せただけ。
同時に、WARAVEは己の背筋に冷たいものが走るのを感じた。
白状するなら、先刻紡いだ言葉は、賭けだった。
この問いが彼の気分を害せば、その瞬間にこの『海』は──ともすれば、この宇宙さえ崩壊するかもしれない。
無論、WARAVEは彼が激情に突き動かされて破壊を選ぶ様な人物でないことを知っている。
しかし、例え彼が崩壊を望まなかったとしても、彼の力はそれを実行してしまうかもしれない。無論、彼の思惑の外で。

「それは嫌だなあ」

しかし、WARAVEの恐れは杞憂となった。
きん、と凍りついた空気は強欲王の二度目の言葉で一瞬にして融解し、元のゆるりと穏やかなものに戻ったのだ。

「うん、やっぱり嫌だよ。そうなったら僕はとても悲しいだろうね!きっと物凄く、途方もなく悲しくなるよ。
『海』の水よりも沢山の涙を流すんだ。この宇宙を僕の涙で水浸しにするくらい」

彼にしたら冗談だったのだろうが、WARAVEには笑えなかった。宇宙を涙の海に浸す程度の所業は、彼ならやりかねない。
一抹の不安というか、危惧というか、新しくそんなものの種が生まれたのを感じながら、WARAVEは更に問いを重ねた。

「悲しい、それだけか?嫉妬だとか、怒りだとか、そんな感情が起こらぬというのか?汝は、我を恨まぬのか?」
「どうして君を恨むんだい?」

さっぱり意味が分からないといった調子だった。
ぽりぽりと頬を掻きながら首を小さく傾げ、強欲王はWARAVEを見つめていた。

「だって、WARAVEの返事を待つ為の千年だろう?その間に好きな人が出来たなら、つまり返事はノーってことじゃないか。
それは、確かに残念なことだけど」

またそれを想像して悲しくなったのか、強欲王はうううと情けない呻き声を上げながら頭を抱えた。

「……だけど、それがWARAVEの選択だもの。僕に口出しする権利はないよ!だって、」

本当にころころと感情を動かす男だ。先程までの情けない姿は何処へやら、誇らしげに胸を張り、彼は言い放つ。

「愛する人の幸せこそが僕にとっても最高の喜びなのだから!」

暫く、場はそのままだった。
強欲王は腕を広げた大袈裟なポーズのまま立ち尽くし、『海』の水は穏やかに波打つのみ。
そしてWARAVEはといえば、ひたすら呆れていた。
この男は何をほざくのだろうか。彼の力を以てすれば、奪うことも引き裂くことも容易だろうに。
どこまで愚直で、暢気な男なのか。
WARAVEはふと、己の彼に対する恐れの中に同情の思いが産まれるのを感じた。
それは確かに今までに無かった情だった。しかし、断じて強欲王を愛しいと感じたのではない。
ただ純粋に、ひどく気の毒だと思ったのだ。
存在し、気配を垂れ流すだけで星を滅ぼす程に強大な力。それは、この宇宙は疎か彼自身の体にも余っているではないだろうか。
そういえば、彼は時折、この全知全能たる力を憂いている素振りを見せることがある。

「過ぎたるは及ばざるが如し、という奴か」
「何か言ったかい?」
「戯れ言じゃ。……ではまた、千年後にの」
「うん、待っているよ」

千年。長い長い時である。
その間に、強欲王に対する恐怖は薄れるだろうか。
彼の言葉に応えることが出来るだろうか。
WARAVEは、その可能性を肯定したくはなかった──肯定することになろう筈もない。

「運命は神のみぞ知る」

ならば神の運命を知るのは一体誰なのだろう?
────未来を確信しているにも関わらず、WARAVEはそんなことを考えた。




2008.October.3 up


強月です。初狂乱SS。強欲王は名前に反して無欲で負の感情を知らないタイプじゃないかなあと。
まあ姉妹丼最高うへへへのくだりは欲じゃなくて煩悩ですから。というか月香とSYGNUSSの姉妹丼なら私でもああなります笑
次は月香ラブ月香大好き愛してるな強欲王が書きたいなー。





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