結局のところ、それは単純な結論 結局のところ、それは単純な結論

「ん」

昼食時のざわついた教室の中、不意に視界を覆うピンクのギンガムチェック。
正体をよく見ればピンクの包みで、突然差し出されたそれに悟飯は意味も分からずきょとんとした。

「え?」
「ん!」
「ええと、何でしょうか、ビーデルさん」

包みを突き出したままこっちを(睨みつけると形容できるほど)見つめる少女は、お弁当よ、と言った。

中庭に出る。いい天気だった。ぽかぽかと暖かい陽気に、柔らかく日差しを遮る梢。
昼食を摂るには絶好の場所だが、生徒の姿は殆ど見えない。たぶん校内のカフェテリアはごった返しているんだろうな、と悟飯は思った。
二人並んで木陰に腰を下ろし、改めて悟飯は渡された包みに目を落とす。

「それで、これは」
「だから、お弁当よ。作ってきたの」
「ビーデルさんがですか?」
「そうよ」

何か文句でもあるの、とでも言いたげな語調にたじろぎ、悟飯は意味もなくすみません、とだけ言って口を閉じた。
ビーデルの姿にどことなく父を叱る母の面影がちらつき、悟飯には父の気持ちがなんとなく分かる気がした。

「何で謝るのよ。……これ、悟飯くんの為に作ってきたんだから」
「え」
「……迷惑だった?」
「いや、そんな、でも」

予想外の言葉に戸惑う悟飯の仕草は、やんわりとした拒絶と受け取られたようだった。
不意にビーデルは悟飯の手から包みを取り戻し、すっと立ち上がった。

「ごめん」
「ビーデルさん」
「ごめんね、勝手なことして──」
「待って」

そのままこちらも見ずに歩きだそうとする彼女の腕を悟飯が掴み、ビーデルは咄嗟にそれを振り解こうと力を込めた。
不意に掴まれた腕を解くことは、日頃の習慣から癖になってしまっている。
しかし、慣れきった動作が普段通りに働くことはなかった。さほど強く握られているようには感じないのに、悟飯の手はがっちりとビーデルの動きを封じている。

「離してよ」
「嫌です。それは僕の為に作ってくれたお弁当なんでしょう?だから食べる権利はあるはずです」
「でも、迷惑だったんでしょ?」
「そんなことありません。ただちょっと驚いちゃっただけで」

抵抗していた力が抜ける気配を感じ、悟飯は掴んだ腕を離した。
ビーデルはもう一度彼の隣にちょこんと座り、まだ少しためらいがちに包みを手渡した。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」

再び手の中に戻ったピンクの包みをそっと解く。少し大きめの、白いランチボックスが顔を出した。

「言っておくけど、私のお弁当箱じゃないわよ」

私はもっと小さいので十分なんだから、と頬を染めながら言い添えたビーデルを見て、悟飯はふと以前の天下一武道会での食事を思い出した。
あの時も彼女はちっとも箸を進めていなかったような。

「ビーデルさんって少食なんですね」
「……悟飯くんがよく食べるのよ」
「そうなんですか?でも僕の周りの人はもっとたくさん食べますよ」
「それは──」

ビーデルは何か言いかけたが、少し困ったように笑って、やめた。

「なんでもないわ。ね、早くお弁当食べてよ」
「……?」



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